猿之助・中車襲名披露公演のラストを飾る巡業、姫路公演に行きました(神戸も京都も平日で休みが取れなかったもので)
この襲名披露は注目度が高く人気公演だったので、この日も満員。
実を言うと私はこれまで松竹座も南座もチケットを取り逃がしていたので、襲名後の猿之助さん及び中車さんは別件で拝見しているものの襲名披露はこの公演が初です。
この福山雅治さんから送られた祝幕も猿之助さん出演の伝統芸能の今2014で先に見ているものの、きちんと襲名披露公演で使われているのを見るのは今回が初めてです。
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いやー、間に合ってよかった。
昼の部と夜の部で演目は変わらないのですが、上演順が違っていました。
夜の部だったので義経千本桜→口上→小栗栖の長兵衛の順番でした、長兵衛は面白おかしいながらも微妙な後味の悪さが残る演目だったので、やはり物悲しいながらもケレン味たっぷりかつ歌舞伎らしい義経千本桜でパーッと終った方が気分は良かったかなと個人的には思いました。
一、義経千本桜 川連法眼館の場
お馴染み狐忠信と本物の佐藤忠信のエンカウント、義経の梅玉さん以外はだいたいおもだか配役。
義経らしい気品のある梅玉さんと華やかな静御前の笑也さんが舞台の真ん中にいて、狐忠信の猿之助さんが縦横無尽に出現するのでアクションとギミックに驚きながらも安心して観られる感じでした。
派手なアクションの中にも鼓にされた親へのせめてもの孝行として鼓を預かる静御前の護衛をしていたとか、本物の忠信に迷惑が掛かってはいけないので本当の話をするとか狐忠信の心優しい真面目な狐っぷりが良かったですね。
ファンタジーの中にある心の動きのリアルさみたいなものを感じました。
二、口上
襲名披露の口上なので、襲名する二人の紹介役が梅玉さん。
またもや舞台の上のほとんどがおもだか一門なので、口上のエピソードもあまりはじけたものはなく真面目な印象。
そんな中、おもだかの古株の寿猿さんの先代の猿之助襲名口上にも列座していたという歴史を感じさせる口上で客席がどよめいていました。
猿之助さんはいかにもな感じで、中車さんももう香川さんというより市川中車ですね。
三、小栗栖の長兵衛
時期的には本能寺の変の後、明智光秀も討たれたぐらい頃。
暴れ者で村でも厄介者扱いの長兵衛、父親も妹も妹の夫(三人とも正直者)も困り果てている。
他の村人もごくごく普通の善良な村人で、落ち武者狩り禁止令が出たと知って未遂なのに「俺がやりました!」みたいに泣き崩れながら自白するような人ばかり。
そんなのだから馬を盗んで転売したり、落ち武者狩りでろくな成果がなかった腹いせに美人の巫女さんにお酌を強制しようとする長兵衛の厄介さが強調される感。
お坊さんの説教も右から左へ聞き流すし。
この巫女さんを無理矢理に連れてきた時点で長兵衛はすでに酔っ払っているのですが、先ほどの口上でのキリッとした姿から別人化する中車さんが良いですね。
かなり目茶苦茶なので村人の嫌いっぷりもすごいですが、馬の持ち主と揉めて大乱闘になるあたりは演技なのに物が壊れたり大迫力なので簀巻きにされても仕方がないというか流れが自然。
もう諦めて泣きながら酷い事を言う父親……と、そこに立派な出で立ちの武士・堀尾茂助がやってきて、落ち武者を刺した竹槍の持ち主を探しているという。
堀尾茂助は月乃助さんなのですが、名古屋公演の時に堀尾氏の子孫からお礼の差し入れが送られてきたとか。納得の立派さ。
村人は落ち武者狩り禁止令が頭にあるので隠蔽しようとしますが(事なかれ主義)、簀巻きの長兵衛が自分を差し出して大金にしろと名乗り出ると、実は刺された武者というのは明智光秀で、光秀を討った功績で褒美が出るという話。
そこからもう村人の態度が激変で春猿じゃなかった巫女さんさっき投げたその榊って踏まれて泣いてましたやん!とかお父さん酷いことをいう時に泣いてたぐらいだから本心では息子が立派になってほしいと思ってたのわかるけど、何もそれまで誉めてた妹とその夫をディスる事ないでしょ!とかお坊さん拝んでるし!とかツッコミたくなる場面満載。
最終的に褒美を貰いに行くのに徒歩だと間に合わないという長兵衛に馬の持ち主が「こんな駄馬でよければ」と、あんなに取り戻そうとしていた馬を渡す始末。
長兵衛があまり深く考えないタイプなので俺スゲー!みたいな満面の笑みで馬に乗り、見送る家族と村人もみんな笑顔なのに何か釈然としないという芝居でした。
うーん、人間ドラマ。
ある意味、対照的な演目で歌舞伎って色々あるというのを短時間で味わえたんじゃないでしょうか。