1月に東京で上演された壽三升景清が南座でも上演されるという事で、行ってきました。
七月の歌舞伎座での図書之助が良かった事もあり、海老蔵さんの主演にも期待はある程度して行ったのですが。
今回はちょっと厳しめな感想かも知れないです。
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舞台が始まる前から幕には海老ドーン!プラス歌舞伎十八番のお約束の演目と主演の名前が書いてある枠みたいなあれもあって気分を盛り上げます。
今回は歌舞伎十八番の最近あまり上演されない演目を普通に復活させても面白くないという事で、『関羽』『鎌髭』『景清』『解脱』を景清が生涯の最後に見た夢という形で一つの演目に纏めた新作です。
新作なのですが、元が古典なので歌舞伎らしさは満載かつ津軽三味線とのコラボという現代ならではの要素も盛り込んでいます。
古典を組み立てて一つの新作にするというアイディアは良かったですし、荒事と津軽三味線のコラボも迫力のあるもの同士で相性は良かったですが、いかんせん荒事がいくつも組み合わさっていてとっ散らかった感が拭えないのと歌舞伎十八番のお約束の枠のせいか回り舞台での場面転換がなく進行の途切れる時間が長かったのが惜しかったです。
洞窟のようなところで波乱の生涯を終えようとする景清が平家の再興を願い、掛け軸の関羽に力を与えてくれるよう願うとその力が宿り魏の武将の館に単騎で乗り込み大暴れ!と書くとスムーズですが、実際は掛け軸に願う場面と武将の館で真・三國無双の如く立ち回る場面の間に長い場面転換が挟まるんですね。
さらに、その『関羽』が終るとまた長いブランクがあって『鎌髭』に。
鎌髭は単品で前にも上演していたぐらいなので、内容が濃いので荒事が連続してるような気分になります。
内容は良かったです、配役も。
身をやつしている景清に「誰かに似ている」と言い立てて、最終的に「海老蔵にそっくり」とか翫雀さんの鴈治郎襲名ネタがあったり敵キャラなのに面白いうるおい有右衛門など荒事の大らかさもたっぷりでした。
そこからさらに畳み掛けるように『景清』に続くのですが、そこでは阿古屋と娘の人丸の場面があるので気分が和らぎます。
この場面がなくてそのまま牢屋の場面だったらもっと評価が厳しかったと思います、これを挟んだのは良かったです。
また孝太郎さんの阿古屋と翫雀さんの重忠のやり取りや、重忠が景清を説得する場面の緊張感は見ごたえがありました。
また、牢を破壊した後の大立ち回りを盛り上げる津軽三味線の迫力も良かった部分です。
この荒事メイクから『解脱』の顔にするのに時間がかかるのはわかりますが、また大きな休憩を挟んでなので気が抜けます。
解脱の場面そのものは華やかな中に散華の仏教的な要素もあり、興味深かったです。
ようするに、部分部分では良かったですし「生涯を終えようとする景清が関羽になる夢から平家再興への願いを振り返り、夢の中で得た結論により解脱の境地で天に向かう」という全体の流れもわかるのですが、荒事の連続や場面転換などで何となくまとまりがなくなってしまっているという惜しい作品でした。
やりすぎ感みたいなものもあったので、海老蔵さんはメインで創作するよりまだまだ誰かの監修がある方がいいのかも知れません。
そして、亀三郎さんのエエ声を何度も味わえたのはよかったのですが、ほぼセットで道行さん(元薪車さん)がいて一体どうして彼はこうなったのかについて悩んでしまったという個人的な事情もちょっとよくなかったのかも知れません。
舞台はすっきり観たいものですね。