やっとこさ行ってきました、歌舞伎座さよなら公演。
歌舞伎座が今の姿ではなくなるという事でどうしても一度は行きたかったのですが、なかなか予定が合わずようやく行けました。
何といっても勘・仁・玉の籠釣瓶、これは遠征しておかねば。
顔見世と今回で舞台写真を10枚ずつ買ってしまってるんですが、仕方ないですよね?
今回は十七代目中村勘三郎二十三回忌追善も兼ねているという事で、演目も出演者もゆかりのある感じでした。
久々に歌舞伎座の中にあるお稲荷さんの社にお参りも出来ました(改築後のお社はどうなるんでしょう?)
正面から眺めると改築なんて必要あるの?という雰囲気ですが、サイドに回ったり中の細かい部分を見るとやはり老朽化は感じました。
どうか今の「大都会の真ん中にいきなり和風建築!」な雰囲気を残して、いい改築をしてほしいです。
配役、あらすじなどは
この辺。
そして感想本編
一、壺坂霊験記(つぼさかれいげんき)
三津五郎さんの沢市は真面目さゆえに不器用な感じでした、福助さんのお里はポジティブで夫思いでした。
お里は沢市の目が見えるようになって欲しいと思っても、目の見える他の人と結婚したいと思った事はない一方で、沢市はお里が美人だと聞くたびに幼い頃に目が見えなくなった自分について悩んでいるように思いました。
でも沢市は「自分がいなければ」と思いすぎですね、結果として観音様に助けられたものの崖下に倒れた姿を見たお里は後を追ってしまいますし。
命が助かっただけでなく、病気でなくした沢市の視力も快復してめでたしめでたし。
真面目な夫と明るい奥さん、という雰囲気で仲良く花道を歩いて行きました。
二、高坏(たかつき)
ひたすらボケをかましながらも、すごいタップダンサーな勘三郎さんの次郎冠者でした。
大名の彌十郎と太郎冠者の亀蔵さんもいい感じ。
高足売の橋之助さんは高杯と高足(下駄)という間違いようの無い二つを上手い事を言って騙すにやけ具合が良かったです。
最後の大名と太郎冠者、次郎冠者の踊りはリズミカルかつ笑えて最高でした。
三、籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)
序幕 吉原仲之町見染の場より
大詰 立花屋二階の場まで
これを観るためだけに、東京まで新幹線を使ってひょいっと行ったと言っても過言ではない……
次郎左衛門→勘三郎、八ツ橋→玉三郎、栄之丞→仁左衛門ですよ。
その他も舞台の端から端まで豪華でした、それだけに愛想尽かしでアラーム鳴らしちゃった人がいたのが残念だ。
次郎左衛門と治六(勘太郎)がやってくる場面は、白倉屋万八(家橘)に安く遊ばせると騙されているのですが、もういかにも騙されやすそうな二人でした。家橘さんがそんなに悪い人に見えないのが逆にリアル。
立花屋長兵衛(我當)が助ける時も、長兵衛も本気で見てられなかったような。
そして花魁道中だけ見物して帰る予定で、九重(魁春)と七越(七之助)の道中を「いいもの見ちゃった」な感じでウォッチ。二人ともやっぱり綺麗です。
そしてそしてそして、八ツ橋がー!玉さまの八ツ橋がー!
綺麗だなんてわかって観に来た!それでもあえて言おう!美しいと!
客席も(たぶん)全員が次郎左衛門とシンクロ、出てきた瞬間「ほぉ……」みたいなのでザワザワ、そして見返りの笑みで水を打ったように静まり返る。
ほんの数秒の出来事なのですが、それまで真面目に生きてきた次郎左衛門が破滅に向っても仕方がない説得力がありました。
八ツ橋は元々は武家の娘で、色々あった末に家に中間として使えていた権八に売られて花魁になった人なので、最高位の花魁になっても「これは本当の自分じゃない」という気持ちがどこかにあったんじゃないでしょうか。
その時点での次郎左衛門は廓の事もよく知らず、「最高位の花魁の道中だから」ではなく「綺麗だなー」というだけで見とれていて、それが嬉しくて八ツ橋は微笑みかけたのかも知れません。
基本的に素朴で良い人でお金持ちな次郎左衛門は、八ツ橋のためならほいほいお金を使ってしまって権八(彌十郎)に金づる扱いされています。しかし、あんまり度重なったのか立花屋の女将おきつ(秀太郎)を通じて断られます。この時の秀太郎さんがいかにもうっとうしそうでいいですね、あんなに断られたら引き下がります。
それでも権八は諦めず、八ツ橋の間夫の繁山栄之丞(仁左衛門)を焚き付けて次郎左衛門の身請けを断るように迫るという。
栄之丞と八ツ橋は、八ツ橋が花魁になる前からの付き合いなので、もし何事もなくて武家のままだったら普通に仲が良かったんじゃないかと思わせる二人でした。栄之丞、カッコいいし。
そんな事は知らない次郎左衛門は商人仲間の丹兵衛(市蔵)と丈助(亀蔵)を連れて、花魁の九重と七越を呼んで宴会。今日は治六にも初菊(鶴松)が付いていますし、次郎左衛門は八ツ橋を身請けする気まんまんで盛り上がってます。
しかし万座の中で愛想尽かしされます、もう恥とか怒りとか悲しみとか色々とこみ上げてます。
八ツ橋も、おそらく素朴な次郎左衛門の事を嫌いではなかったのでしょう。
次郎左衛門の悲しそうな驚いた顔を見ないように背け、苦しそうな顔を見せないように身請けは嫌だと告げます。
しかし「今日、今すぐ」縁を切るように言われて栄之丞も部屋の外で聞いている状況で、誰もが傷付くような愛想尽かしをしてしまいます。
九重に聞かれて言う「嫌になりんした」は、何もかも嫌になったように聞こえました。
次郎左衛門には自分が嫌になったとしか聞こえないのでしょうけど。
そして四ヵ月後、再び次郎左衛門がやってきます。
あの時に次郎左衛門をなだめた九重も、たいこもちや芸者も心配していたと歓迎します。
そして八ツ橋……初見になって遊んでくれと言われ、信じますが……
全てが嫌になったあの日から四ヶ月、もう終りだったらこんな形でも受け入れたのかスローモーションで倒れます。
次郎左衛門は何をしたか訳がわからないのか、ただ目の前にある事実だけを言います。
「籠釣瓶は、よく切れるな」と。