前に南座で玉三郎さんの阿古屋が掛かったのは私が歌舞伎を観始めた前の年で、すれ違った感じがして何とも言えない気持ちでした。
それから月日は流れ、阿古屋を観たいと思って約10年ほどでしょうか。
ようやく観られる機会が私にも巡ってきました。
雨の中お礼の意味で六波羅蜜寺の阿古屋塚にお参りし、南座に行きました。
もちろん一等席です、自分の財布の意見を聞いている場合ではありません。
ロビーなどでは行われている「玉三郎“美”の世界展」は5月と一部の展示を入れ替えをしてあり、5月に展示されていた阿古屋の衣装と楽器、傾城の衣装が別の展示に変わっていて「ああ、あれが今月は舞台で使われているんだな」と感慨もひとしお。
DVDや三曲の演奏のみは観た事があるのですが、やはり実際に生の舞台で壇浦兜軍記の一段として観た方が良かったです。
言うまでも無い事でしょうけど。
少々前置きが長くなりましたが、そろそろ感想本編。
公演詳細は
この辺。
一、壇浦兜軍記 阿古屋
景清の行方を問いただすため、重忠と岩永が阿古屋を詮議するという事で岩永は「拷問しようぜ!」みたいに盛り上がってます。
重忠がジェントルマンなのに対して、結構ひどい事を人形振りでコミカルに言う岩永。
愛之助さんの重忠は色々と考えた末に優しくしている感じで、薪車さんの岩永はコミカルさでひどさをマイルドにしている感じでした。以下のカッコ書きは舞台の印象からの意訳なので、合ってない事もあると思って読んでください。
いよいよ阿古屋を呼び出すという事で榛沢が……おお、功一さんだ、台詞も多いぞ……というのはさておき、榛沢が呼び出して捕り手たちに囲まれた阿古屋が花道から登場します。
これから詮議なのに縄はかけられておらず、華やかな花魁の姿。
しかし、憂いや景清やお腹の子どもに対する気持ちがにじみ出ています。
あくまでジェントルマンに景清の行方を聞く重忠に対し、「色々と配慮してもらってかたじけないです、知っているなら景清様の行方を言いたいですが……」な阿古屋。
岩永は眉毛をカクカクさせながら(どういう仕掛けになっているんだろう)脅しますが、そんな脅しに屈っさないと三段の上に身を投げ出して覚悟を伝える姿の美しさ。
阿古屋は京の花魁なので全体的には柔らかい雰囲気ですが、それだけにここの強さが際立ちます。
さて、そんな阿古屋を拷問しようとショッカー戦闘員のような竹田奴を呼び出す岩永。
イーイー言いながら出てくる竹田奴、みんな顔が変なメイクで出オチですが一瞬しか出てこないので問題なし。
そんなものはいらないと竹田奴を下げさせて、楽器を持ってこさせる重忠。
さっきから重忠が優しすぎるみたいに言ってる岩永は、ここぞとばかりに「このどこが拷問の道具だ!職権乱用して阿古屋の演奏を楽しむつもりか?」みたいにギャーギャー。
さくっとスルーして、楽器を前に戸惑う阿古屋に琴を演奏させます。
景清の行方を知らないという事を、月になぞらえて弾き語る阿古屋。琴の音色がすごく切ない。
ひとしきり演奏が終ると、阿古屋に景清との馴れ初めを聞きます。
思いもかけない質問ですが、五条坂での出会いから雪の日の思い出などを交えて平家の敗退までを語る阿古屋。
そして、次は三味線。呆れてどっかに行く岩永。
会えない景清への恋しさを三味線に乗せて歌う阿古屋、じっと聞く重忠。
もうよい、と演奏を止めさせて「平家の敗退後も京にいるという景清と会っているのでは?」と聞く重忠。
阿古屋は「一度だけ編み笠を深く被った景清様と格子越しに会いましたが、それっきりです」と悲しげに俯きます。
口頭で気持ちを語らせる→演奏させてさっきの気持ちが本当か確かめる、というのが重忠システムのようですが岩永は納得が出来ない様子(いつの間にか戻ってきてる)
そんな岩永も阿古屋の胡弓には聞き入っています、というか客席も聞き入っています。
いつもならちょっとした客席雑音があるのですが、この日は胡弓の音しかありません。
もちろん私も聞き入っていました。
阿古屋の演奏が終り、重忠が拷問の終了を告げます。
納得が行かない岩永に楽器を水責めなどの拷問になぞらえ、音色に乱れの無い事から心の乱れは無く景清の行方は知らないという事だと説明し、阿古屋を釈放します。
感謝する阿古屋、綺麗に纏まったところで幕。
演奏に注目しがちですが、登場人物のやり取りなど舞台として面白かったです。
もちろん、景清への想いと覚悟を背負った“阿古屋”のままで演奏する玉三郎さんは素晴らしかったです。
二、傾城
京の花魁である阿古屋に対して、すっきりとした江戸の花魁を見せる舞踊。
花魁道中や四季の移ろい、恋心などを舞います。
はっきり言って内容はそれだけですが、夕霧(廓文章、これはベタベタの上方風味)の衣装を一部流用してるっぽいのにちゃんと江戸の花魁を感じさせるのが凄い。
カーテンコールは一度、それ自体の是非はともかく後ろのお囃子の人とかにも拍手を促がす所に好感が持てます。
とにかく10年分しっかり楽しんできました、ちょっとは歌舞伎を観慣れたおかげで楽しめた部分もあるので今で良かったのでしょう。